ブラジルヒメヤシの仲間でまだまだ謎の多いヤシ、Lytocaryum insigne。
耐寒性があり美しい姿ながら非常に希少でほとんど栽培されていない本種についてまとめてみました。
東京で地植えしています。 大きく育ってきて見応えがあります!
L. insigneってどんなヤシ?
学名:Syagrus insignisまたはLytocaryum insigne(Lytocaryum属はSyagrus属に統合されたため現在はシノニムという扱いです) 流通名:ミニチュアココナッツパーム 英名:Highland Miniature Coconut Palm ブラジルのリオデジャネイロ州 標高1000~1800mの森林に自生。 一言で言えばブラジルヒメヤシを大きくしたようなヤシです。 幹は単一で原産地では最大12mにまで成長します。太さは10cm程度と細身です。幹本体は滑らかですが、褐色の繊維が暫く固着します。クラウンシャフトはありません。 羽状複葉は全長130cmほど。ブラジルヒメヤシよりも小葉の幅が広くしっかりした印象です。小葉は葉軸に対しほぼ水平に付きます。葉の表側が緑色で光沢があるのに対し、葉の裏側はかなり白っぽく少しざらざらとしています。葉柄にトゲなどはつきません。 雌雄同株で雄花と雌花が同じ花序につきます。 花序は細かく分岐しブドウの房のような形状となり、小さな花が多数咲きます。果実は3cm前後の卵形で、熟すと茶色っぽくなり先端から3つに裂けます。種子は片方が少し尖った卵形で、3つの発芽孔のいずれかより発芽します。胚乳は食用とすることもできるようです。 苗は一定の大きさに達するまでは単葉が続きます。大体10枚目の葉になると割れ始めて羽状葉になっていくようです。 いわゆる希少種で、国内外問わず市場に出ることはほとんどありません。しかしながらココヤシのミニチュア版のような美しい見た目をしている上優れた耐寒性も備えていることからマニアの間ではそれなりに人気があるようです。 数年前には「ミニチュアココナッツパーム」という名前で日本でも少数流通がありました。私もその時に入手しましたが、最近は再び見かけなくなっています。
葉の裏側の様子 白っぽく表側とは全く違う質感です。
幹の様子 褐色の繊維に覆われています。 Syagrusの幹はこんな感じのものが多いですね。 年数を経て繊維が剥がれると滑らかな幹が現れます。 ----------------------------------------
栽培メモ
明るい日陰~半日陰がベストですが、ブラジルヒメヤシと違ってある程度の直射日光に耐性があるみたいです。 数時間ほど日の当たるベランダに出すと最初は若干葉焼けが見られたものの、次第に適応し次の葉からは焼けなくなりました。 流石に一日中日向だとつらいと思います。 耐寒温度については情報が少なく、従来は約-4℃の耐寒性を持つ同属のhoehneiよりも標高の高い場所に自生しているためより耐寒性が強いのではないかといわれていましたが、本種を栽培されている方より-4℃で大きく傷んだとのコメントをいただきました。 ブラジルヒメヤシと同程度の-3℃台が限界なのかもしれません。 2018~2019年冬には-1℃位まで下がるベランダの簡易温室で越冬に成功。 その後地植えし、2019~2020年冬は無保護で越冬させました。最低-1℃ほど、積雪無しでノーダメージで越冬しました。 2020~2021年冬も無傷です。 そして2022年1月には初めての積雪を経験するも、無傷で越冬成功しました。 原産地は穏やかな亜熱帯気候で、平均気温は最暖月で最高27℃、最低17℃。最寒月で最高21℃、最低9℃程度です。 雨季と乾季がはっきりしており、夏は月200~250mmほどのまとまった降水があるのに対し、冬は20~30mmほどしかありません。 水やりは暖かい時期は多めに、寒くなってきたら控えるなどメリハリをつけるといいでしょう。高温+乾燥や、低温+多湿の組み合わせはNGです。 鉢植えだと成長は遅く葉の展開は年間3枚ほど。地植えしてからは加速し去年は5枚の葉を展開させました。hoehneiより速く、weddellianumと同程度の成長速度かと思います。 ----------------------------------------
Lytocaryum属について
現在Lytocaryum属は全ての種がSyagrus属に統合され消滅しているようです(2020年3月現在)。しかし今でもLytocaryumの名前は広く用いられています。私が紹介する時もLytocaryumの名前を使っています。そちらのほうが馴染みがあって分かりやすいですしね。 ちなみに昔はCocos属だった時代もあります。それからSyagrus→Microcoelum→Lytocaryumと移行され、どういうわけか近年再びSyagrusに戻ったのです。これだけ学名が変わると混乱を招いてしまいそうですが、きっと深い理由があるのでしょう。私は分類については素人なのでさっぱりわかりません。 Lytocaryum属のヤシは以下の4種が知られています。 ・hoehnei ・insigne ・itapebiense ・weddellianum(ブラジルヒメヤシ)
🌴L. weddellianum(ブラジルヒメヤシ) リトカリウムの代表格。日本では観葉植物としてメジャーなヤシですね。 英名はMiniature Coconut Palm。 幹高2~3m、羽状葉の全長は約90cmほどになります。 小葉が細く、葉全体が緩やかに垂れ繊細な雰囲気です。発芽直後から羽状葉を楽しめます。 日陰を好み、強い日照には弱く葉焼けしてしまいます。
🌴L. hoehnei 室内で育てています。 L. insigneほどではないかもしれませんがかなりの希少種です。 原産地では4mほどになりますが栽培下ではそこまで高くならないことが多いらしいです。 ブラジルヒメヤシと比べてしっかりした葉を持ち、幹も太く、より耐寒性が強い。しかし日光への耐性はありません。 成長は他よりも遅く、発芽直後は暫く単葉が続きます。 🌴L. itapebiense バイーア州イタペビにのみ自生する究極のレアパーム。 最も小型の種で、幹を形成せず全高数10cmにしかならないそう。 希少すぎてほとんど情報がありません! ----------------------------------------
栽培記録 (随時更新)
2018/1/25 我が家にやってきた時の様子 この時から全高1m以上、羽状葉が出揃っていました。 下のほうの葉の先端には単葉の名残が少しだけ感じられます。 この日は関東各地で最低気温の記録を塗り替えてしまうような強烈な寒波に襲われ大変な日でした。
2018/5/2 ベランダ栽培中 2本の槍が同時に伸びています。 ブラジルヒメヤシもこんな伸び方していました。
2018/8/17 Ravenea glaucaと並んで仲良く展開。
2019/1/31 簡易温室での越冬の様子 ちょっとごちゃごちゃしてますが手前の葉はDypsis onilahensisで、その奥がinsigneです。 この年の最低気温は-1℃くらいでした。
2019/5/16 地植え決行! この時点で私の知る限りでは国内での地植え例はないようです。未知への挑戦です。 それまで置いていたベランダはかなり過密な状態で、風による他のヤシとの接触などにより葉がチリチリになっていて、さらに春以降日射しに晒されたことにより葉色も悪くなってかなり状態が悪いです。 この年展開したばかりの新しい葉ですら既に黄色っぽくなっています…
2019/6/20 地植えして間もなく葉が展開。 特に環境変化によるストレスも見られず無事根付いてくれたようです。
2019/8/22 地植え以降新しく出てくる葉は綺麗で健康に見えます。
2019/11/7 この年は5枚の葉を展開させ、その次の新葉が出始めたあたりで低温のため成長が鈍ってきました。 耐寒性を確かめるためちょっと怖いですが無保護で越冬させてみます。
2020/2/12 記録的暖冬で平年より高い気温が続いていましたが6~7日にかけて寒波が到来し、アボカドの幹に設置した温度計は-1℃を記録していました。 ベランダは-3℃だったのでこちらのほうが暖かいようです。 今のところ無傷で、葉色も良好です。
2020/3/11 長い冬も終わり日毎に寒さが和らいでくるのを感じます。 ご覧の通り、ノーダメージを維持しています。 積雪がなかったので雪への耐性が気になるところではありますが、とりあえず一安心です。 今年の成長にも期待です。
2020/7/22 春の立ち上がりがいまいちかな?と思っていたところ、ここ1ヶ月ほどで成長が急加速しています。 梅雨のおかげでしょうかね。
2020/9/23 幹が上がってきました。
2020/10/14 暗い時間に葉の裏側をフラッシュ撮影してみました。 白さがよくわかります。
2020/12/16 この年はかなり寒くなるまで成長を続けました。2020年中に6枚の葉が展開しています。
2021/4/28 地植えしてから2度目の冬も無事に越せました。 今年初めての新葉も伸びています。 葉数も増えて賑やかになってきました。
2021/9/10 続々展開中です。
2021/10/13 葉数が増えてかなりボリューム出てきました。
2022/1/6 地植えして3度目の冬にして初めての積雪、ちょっと心配。
2022/4/5 完全無傷です。 少しは傷むのではと思っていましたが想像以上に雪に強いですね。
周りにブロック塀や立木が有る様ですので風や放射冷却が抑えられたり僭熱効果で大分越冬に適した環境に成つているのだと思います。不安の残る地植一年目が暖冬だつたのも幸運だと思います。万全の状態で二年目を迎えられ今年も理想的な成長をすると思うので次の冬には更に耐寒性を発揮そうです。
後、去年の春の地植えで此だけ綺麗と云う事は無事台風にも耐えたんですね。
insigneでは有りませんがhoehneiはうちにも有るので成長が楽しみです。